馬の歩様(Gait)もそうだが、動物が移動(Locomation)するときにとる歩様の振る舞いは多くの人に興味を持たれている。 中でもでも、ヒトが行う「歩く」と「走る」は身近な(自分自身のことである)ことであるので、多くの人たちが調べている。
まず、「歩く」と「走る」の違いとは何かというを考えてみよう。「歩き」つつ「走る」ということはあり得ないので、この二つは排他的である。しかも僕らの意識では、「歩く」と「走る」は不連続な行為だと思っている。「歩く」の先に「走る」があるとは思っていない。
ヒトが「走る」の定義として、「1ストライド(ある歩様の一サイクル)中に両足とも同時に地面を離れる時間がある」としている人たちもいる。この定義では、その時間が0で「歩く」で、0でないと「走る」になる。「歩く」と「走る」は排他的になっているが、不連続ではない。
R.M.Alexanderたちは、ヒトを使った「歩く」や「走る」の実験をして得られた実験量で「歩く」と「走る」の違いをえぐり出すことをしている(R.M.Alexander”Principles of animal locomation”)。それによれば、「歩く」と「走る」の実験で得られる排他的で不連続な量は、デュテー因子(duty factor)とシェイプ因子(shape factor)である。最初のデュテー因子(duty factor)は、1ストライド内で、片足が地面に着いている割合である。「歩く」では、この因子は0.6になる。一ストライド内の約6割の時間で片足が地面に着いている。 「走る」とこの因子は0.4になり、この変化は不連続である(因子が0.5などをとることはない)。
シェイプ因子(shape factor)は、一ストライド内で足が地面を押す力の時間変化のグラフに現れる特徴を示す量である。この力の時間変化の一例を示す。
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図の説明:この図は70Kgの男性がいろんな速度で「歩く」や「走る」動作をしているとき、足が地面を押す力の時間変化を一ストライド時間に渡って表示したものである。横軸は時間、縦軸は力。上図は横向きにかかる力、下図が垂直にかかる力である。A,B,Cは「歩く」の場合、Dは「走る」場合である。下図のグラフに着目してほしい。「歩く」場合と比較して、「走る」場合のグラフが特異なことがわかる(R.M.Alexander(2006)による)。
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「歩く」ときに比較して、「走る」ときに時間変化がいかに特異かがわかる。この時間変化の特徴をえぐり出す量がシェイプ因子(shape factor)である。この量は「歩く」と「走る」では不連続に変わる。
R.N.Alxanderによれば、「歩く」と「走る」はこの二つの因子の値で判然と区別されることになる。