乗馬クラブの放牧会で撮影した二頭のウマのポートレートである:
「汗血馬」と天山北路
三国志の呂布や関羽が乗っていた馬が「汗血馬」である。一日で千里を走ると言われていた名馬であった。その生産地は前漢(西紀元前100年ごろ)の烏孫(うそん)国であった。天山北路の昭蘇平原もその国に含まれていた。「シルクロード 1万5000キロを往く」(今村遼平ら編著)によれば現在の昭蘇平原もウマが沢山飼育されているという。
一概にウマといってもウマ(Equus)は四つのタイプに分類されている。体高の違いで「ホース」と「ポニー」に分類される。さらにこの「ホース」も「ポニー」も二つに分類される(ポニーのタイプ1、ポニーのタイプ2、ホースのタイプ3、ホースのタイプ4)。ホースのタイプ4は西アジアから広まったものでアラブウマがその典型であり、サラブレットもここに入る。ホースのタイプ3は中央アジアから広まったもので、Akhal-TekeやCaspianといった現生品種がこのタイプのウマである。
生産地域から見て「汗血馬」はホースのタイプ3であったと思われる。このタイプのウマは体毛が薄い。汗をかくと血管が浮き出て赤く見えたので「汗血馬」と言われた。こんな説はどうだろうか?
遊牧経済文化と天文学
日本では近世後半の西洋の知識が流入するまで天体現象に合理的な説明を創作すること(これが天文学である)がなかった。前々からその理由について考えてきているが、日本のような農耕経済文化では「天体は必要なかった」。これが理由のように考えている。農耕経済文化では人々は土地に執着する。村に定住しその狭い環境を熟知して農耕をおこなう。四季折々の変化もそこにある。
一方紀元前3500年ごろ中央アジアの西端で起きた遊牧経済文化は馬とワゴンを持ち家畜化された動物を飼育する文化である。広大なユーラシアステップが舞台であり極めて機動性の高い生活をしていた。土地に対する執着は弱く、定住地をもたない。このような環境の中で四季の変化や方向を知る手立てとしてどこにいても見えた天体に注目したのであろう。
世界史的にみても最初の農耕経済文化を築いたシュメール文化と比較して遊牧経済文化であったバビロニアの天文の知識は群を抜いている。これらの知識がギリシアにもたらされ天体現象の合理的な説明を創作する天文学が誕生した。
シェイクスピアと馬
ある研究者によれば、「同時代の全作家のなかでシェイクスピアだだ一人だけが拍車の不当な使用と残酷さと愚かさに気づいてた」とシェイクスピアが馬に大きな関心を持っていたという。これに対して木下順二は「シェイクスピアの世界」の中で辛口の批判をしている。同氏自身は年季の入った乗馬家で、馬に関するエッセイも書いている(「すべて馬の話」)。
その研究者はシェイクスピアの全作品の中で馬に言及している代表例として6例を取り上げている。最も専門的な言及は「ヘンリー四世」の中のセリフで馬つなぎ場になっている宿屋の内庭で朝たちの荷運び人夫が馬丁に呼びかけるもので、「荷馬の鞍叩いといてくれ。鞍の前橋(まえわ)に少し毛を詰めてくれ。かわいそうに痩せ馬め、肩のところにとんでもない鞍傷(あんしょう)を起こしているからな」である。
今日の我々がこのセリフを聞くと、シェイクスピアは馬に詳しかったように感ずるが、馬が交通・運搬の主な手段であった時代であれば、上のような会話は日常的なものであったと思う。木下順二もそのことを指摘してる。
馬と一緒の「恩返し」:津波で失った乗用馬訓練施設と39頭
今朝の新聞記事のタイトルである。
宮城県亘理町で再建された乗用馬トレーニング施設の記事である。
元々は近くの名取の海岸近くにあった施設であるが、東日本大震災の津波で設備や馬を失ってしまった。記事によると41頭いた馬の内39頭を失ってしまった。その後仙台市秋保に仮の訓練所を開設した。このころ筆者も一度訪問したことがある。
義援金をもとに恒久的な設備を再建することを決意。亘理町に再建し名前も「ベル・ステ-ブル」とした。今は馬も40頭に増えている。オーナーの鈴木嘉憲さんは「多くの人の助けがあった。馬を通して全力で恩返しをしたい」と語っている。なお、webページは更新中である。
「ハミ受け」再論
以前にこのブログでも論じた「ハミ受け」について再度考えてみる。
で論じたように「ハミを受けさせる」とは口角にあったハミをずらして歯槽間縁のところに移動させる作業のことである。神経がたくさん走っている口角より歯槽間縁のほうが馬がハミを噛む負担が少ないからだ。
馬がこのことを知っていたら自分から工夫して口角にあるハミを歯槽間縁にずらすはずである。しかしこのことを経験したことのない馬にとってはそんな可能性があるとは思いつかない。最初は乗り手がハミを歯槽間縁に落とす作業をしなければならない。
馬がどのような体勢にあるとハミを落とすことができるのか?馬に推進力を与え少しずつ手綱を短くし馬体を丸くして行く。このような体勢にある馬ではちょっとしたきっかけでハミを歯槽間縁に落とすことができる。このハミ受けの状態は馬にとってもハミを噛む負担が少なくなる。このことを馬に学習してもらう。
よく学習した馬はハミ受けの状態を自ら選ぶようになる。
よく誤解されるのはハミ受けの状態には馬の頭が屈撓して馬の鼻づらが垂直に近い状態(On the vertical)が必須というものだ。ハミ受けはこの収縮歩度でも若干首をの伸ばした伸長歩度で可能である。詳細は
ウマとネコとの話
“The Big Book Of Cats”の中にあったウマとネコの挿話
There’s a cat in love with my horse Harpo these days. The cat is a big old barn tom, but Harpo’s a Thoroughbred, and was pretty high-strung until the cat came around. In the morning when I go to feed him that cat is always lying in the feed bin. If Harpo lies down for a nap, the cat lies down between his front legs, and Harpo is very careful not to move them. They play hide-and-seek out in the field: Harpo nickers and lowers his nose to the grass and the cat meows and pounces. Thing is, this cat doesn’t give a hoot about any other animals- not the dog or the other cats, or even the other horses. Harpo is it. And if I go for a ride, I can lift the cat up with me and he’ll stay on the way while I hold the cat and the cat holds Harpo, holding onto the mane with his teeth.
ANNE FORELLI, RESEARCH BIOLOGIST
このごろ私の馬Harpoと仲が良い一匹の猫いる。その猫は納屋暮らしの大きなオス猫、しかしHarpoはサブレッドでかなり気性が荒い。それもこの猫が出現するまでは。朝に馬に餌をやろうとして厩にいってみると、その猫はいつも餌箱に横たわっていた。Harpoが眠りのために横になると、この猫は馬の前足の間に横になる。Harpoはこの猫のじゃまにならないよう慎重だ。
馬場ではふたりはかくれんぼをする。Harpoは嘶き草に鼻を押し付ける、その猫はみゃあと鳴き突然に現れる。この猫は他の動物、イヌ、ネコ、そしてウマには無関心である。Harpoだからである。
私がHarpoに乗るときは、その猫を私の前に引き上げと、猫はそのまま乗り続ける。それで私が猫を抱き、猫はタテガミを歯で掴んでHarpoを抱くことになる。
4500年前の墓からロバの骨格
久しぶりに眺めたNew Scientistsにあった話題。
青銅器時代の初期(いまから4500年前ごろ)にシリアの人々は野生ロバ(英語ではass)と家畜化されたロバ(英語ではdonkey)との雑種をロバの品種改良の一環として行っていたことが分かったという話である。
考古学的な発掘でこの地方の豪族の墓から馬属の全身骨格がたくさん見つかった。この地方に馬が導入されたのはこの時期より500年後のことであることが分かっているので、この全身骨格は何だということになった。
パリ大学の研究者たちはこれらの骨のDNA解析からこれらの馬属は家畜化されたロバ(donkey)と野生ロバ(ass)との雑種であることを突き止めた。研究者たちはこの雑種はより強靭でより速く走る家畜ロバの生産が目的だったのではとみている。
この地方に馬が導入されると上のようなロバの品種改良は終わってしまった。
乗馬のための箴言(?)
- 馬に乗るときはリンボー・ダンス(棒くぐり)の姿勢をとる。
- 馬は脚で操縦する。手綱は馬の形を整えるためにある。
- 内方姿勢とは馬をバナナのような形にすることである。
- そのためには手綱で馬を内向きにすると同時に脚で馬を外に押す。
- 輪乗りはこの内方姿勢を保持した走り。
- 駈歩は内方姿勢で馬の前内肢が前に踏み込んで始まる。
- 内方姿勢で馬の後肢が外にドリフトするときは外側脚で押す。
- 手綱操作は脇を閉じて。さもないと馬は姿勢を変えない。
- 鐙は踏むものではなく、足の指で噛むものである。
- 脚の扶助は馬を前に押し出すように使う。
- バランス・バックはより低い棒くぐりの姿勢。
- 馬を丸くするときはこのバランス・バックで乗る。
- 馬への扶助は馬の「やる気」を引き出すためのもの。
2022年9月
ロバの家畜化7000年前か:背景にサハラ砂漠乾燥化
今朝の新聞の記事のタイトルである。
ウマ属にはウマ(Equus)、シマウマ(Equus Zebra)、野生ロバ(Equus hemionus hemionus)からなっているが。野生ロバが家畜化されたものがロバ(英語:Donkey)である。この家畜化の開始の時代と起源に関わる問題である。
家畜ロバは約7000年前にアフリカ東部で飼いならされた可能性が分かったという記事である。サハラ砂漠の乾燥化が進んだ結果である。
家畜ロバは4000年前ごろユーラシア大陸に拡散。その後中央アジアや東アジアにも独立性の高い集団が発生した。また逆に各地のロバがアフリカに流入した経緯もあった。
ラバはローマ帝国が繁栄した時期に軍事用に雄のロバと雌のウマとの交配でできたものであることも判明した。