ウマの家畜化は幸運の産物?(4)

このシリーズでウマの家畜化について考えているが、今回はこの家畜化が何時ごろ起きたのであろうか?という問題である。

従来から遺跡から発掘されるウマの骨の統計的な性質(大きさのばらつき)からこの問題に接近しようとする研究があった。

大きさのばらつきによる方法は二つの仮定に立脚している:(1)家畜は保護されているので家畜化された動物の集団は大きさのばらつきがより大きくなり。おとなまで生き残った状態のばらつきもより大きくなる。つまり、変動の幅がより大きな集団になる。(2)囲い、運動の制限そして食料の制限は平均値を減少させるので、家畜化された動物の集団の大きさの平均値は全体として減少する。肢の骨の測定値(主として骨頭や骨幹の幅)がこのパターンの違いの検出するために用いられる。この方法はウシやヒツジの肢の骨では成功しているように思われる。つまり大きさのばらつきの増大そして大きさの平均値の減少は家畜化されたウシやヒツジを同定しているように見える。ウマの一例を示す。

家畜化されたウマを同定するための大きさのばらつき法。縦のひげ付きボックスは左に最古の遺跡(旧石器時代)を右に最も新らしい遺跡(後期青銅時代)の順序で並べた13個所の考古学遺跡から得られたウマの肢の骨の厚さを示している。ひげはサンプルの最大値と最小値を示していてサンプルの大きさによって影響を受けるので集団のばらつきとしては信頼性のないものである。白いボックスは平均からの二つの標準偏差でばらつきとしては信頼性が高く通常はこちらを使って議論する。バー10のばらつきが増大したことからウマの家畜化が始まった証拠と見なされている。

これによればウマの家畜化は紀元前2500年ごろ起きたと推定される。

 

重量級のウマたち(8):クライズデール

重量級のウマたちの最終回はスコットランド原産のウマ、クライズデール。画像はここ

原産はスコットランドのクライズ渓谷。公爵HamiltonやLochlyochのJohn Patersonによってフランダースの牡ウマが導入された。その目的は在来の小型ウマのサイズを増やすことであった。シャイヤーの血も同じ路線で用いられ、シャイヤーとクライズデールは同じ品種の二つの亜種であろうさえ言われた。しかし19世紀までには独自の品種としての生産が確立した。

シャイヤーより軽量なことからクライズデールは非常に活発な側対歩が顕著である。農作業に持ちられているが、この多芸なウマは都会の重労働に向いている。

重量級のウマたち(7):ブラバント

今回はベルギーの重量馬であるブラバント(Brabant)、 race de trait Belge。画像はここ(カナダのブラバント)

名前の由来は主たる生産地である中部ベルギーの地域ブラバントによる。もはや地元以外ではよく知られてはいないが、重量馬の生産では重要なウマであり、米国では強い人気がある。

この品種は非常に古く森林馬または氷河時代のウマ(Equus prezewalski silvaticus)まで遡ると考えられている。この種のウマはローマ帝国にも知られており、11世紀から16世紀にかけて重量級の軍馬生産がブラバントやフランダースで盛んであった。

重量級のウマたち(6):ブルトン

今回のウマはブルトン(Breton)。画像はここ

このブルトン(Breton)は北西フランスの固有種である。この地はブルトン人が移り住んだところで、このウマの起源はブルトン人の故郷である英国ウェールズのブラック山地である。かつては四つの固有タイプが知られていて、その一つは乗用馬であった。今日では重量馬であるブルトンと軽量なブルトン・ポスチエ(Bureton Postier)である。

速くおとなになる重量級のウマは食肉の需要があった。ポスチエは肢の毛が少なく軽量なサフォーク・パンチと同様に力強い速歩で走る。かつては大砲を曳くウマとして用いられたが、ブルトンは軽量な農耕馬として理想的である。

岩手の「ちゃぐちゃぐうまっこ」のウマもブルトンである。

 

重量級のウマたち(5):サフォーク・パンチ

今回のウマはサフォーク・パンチ。画像はここ

サフォーク・パンチ(Suffolk Punch)はその栗毛ゆえに全く独特なウマである(サフォークホース協会はこの栗毛を”chesnut”というこれも独特なスペルを常に使う)。”punch”はその外見からで短足・樽胴なウマという意味。言い得て妙である。

 

重量級のウマたち(4):ノリーカー

今回のウマはノリーカー(Noriker)である。

ノリーカー(Noriker)
ノリーカー(Noriker) by Paula Jantunen

ノリーカー(Noriker)はヨーロッパで最古の重量馬の一つである。名前の由来はローマ帝国の属州であったNoricum、現在のオーストリアによる。Noricumはハフリンガーの生まれ故郷となるウマの生産が盛んなVenetii(ヴェネト)に隣接していた。自然な流れとしてこれらの二つの品種の交流があった。近代的なノリーカーはオーストリアで依然として人気が高く、中央アルプス地帯で様々な目的に使われてきた。

ノリーカーは堅牢で強力な中間的な大きさの作業用のウマである。体型上の標準では管骨(Cannon bone)の周囲が20-24cmはあり、肢が短く、腹帯の部分で体高の60%より少ないことはないことが条件。ずんぐりとした体型のウマである。

重量級のウマたち(3):シャイヤー

今回のウマはシャイヤー(Shire)である。画像はここ

シャイヤーは最高級の重量馬と思われている。特に英国で絶大な人気があり、どちらかといえば数の増加が見られる。シャイヤーという名前は英国内のリンカンシャー (Lincolnshire)、レスターシャー (Leicestershire)、スタッフォードシャー(Staffodshire)そしてダービーシャー (Derbyshire)の四行政区(Shire)に由来する。

シャイヤーは強靭なことで知られている。そして重量馬の中で最も重量のあるウマの品種である。成長すると2,240-2,688lb (1,016-1,219kg)にもなることがある。このサイズや強靭さにも拘わらず大人しく制御しやすいウマである。

 

 

重量級のウマたち(2):ペルシュロン

今回のウマはペルシュロン。画像はここ

アラブ種に多くを負っているがペルシュロンは最も人気のある重量級のウマの一つである。体毛がなく皮膚の問題を度々おこすが、カナダや米国に勢力的に輸出された。

原産はフランス・ノルマンディーの石灰石で有名なラ・ペルシュ(La Perche)地方。その祖先は紀元732年にトゥール・ポワティエ間の戦いでウマイヤ朝の進撃を食い止め、西ヨーロッパへのイスラム教徒の侵入をイベリア半島でとどめたシャルル・マルテルの騎士たちを乗せた。それ以来東方の血がフランスのウマの生産に利用されるようになったといわれている。11世紀以降さらに東方の血が利用されるようになり、ル・パンでは1760年よりアラブ種の牡ウマが使われ始めた。アラブ種の交配、特に1830年に誕生した牡ウマ、Jean le Blancによる影響が大きい。このような影響にも拘わらず大きさやパワーは変わっていない。世界で最も大きなウマはペルシュロンのDr. Le Gearである。体高は21ハンヅ(210cm)で体重は1372Kgもあった。

 

重量級のウマたち(1):ユトランド

重量級のウマたちは個性的だ。そんなウマたちを紹介したい。

今回はユトランド。 画像はここ

ご覧のように運んでいるビール樽のように丸いウマである。デンマークの重量級の固有種である。中世またはそれ以前からユトランド半島で飼育されている。元来は農業や運搬に用いられていたが、数が減少した今日では醸造業者の大荷馬車を曳いている姿でヨーロッパの街角で見かける。

多くの重量級のウマたちと同じように、ユトランドは先史時代の森林の中にすんでいた冷血種のウマから発展したものである。12世紀ごろまでは重量、耐久性そして経済効果に着目した頑強な軍事用のウマとして飼育されていた。19世紀になって現生のユトランドの形ができあがった。

 

 

地域ごとにみたウマの品種(2)

  1. Italy: Maremmana, Bardigiano, Salerno, Sardinian, Murgese, Italian Heavy Draft
  2. Spain: Andalusian
  3. Portugal: Sorraia, Lusitano, Alter-Real
  4. Morocco: Barb
  5. Greece: Skyrian Horse,  Pindos Pony
  6. Middle East: Caspian, Arabian
  7. N. Eurasia: Bashkir, Akhar-Teke, Budenny, Kabardin, Karabakh, Orlov Trotter, Don
  8. Mongolia: Prezewalski’s Horse
  9. India: Indianbred, Kathiawari
  10. Australia: Australian Pony, Australian-Stock Horse
  11. North America: Rocky Mountain Pony, American Shetland, Chincoteague/Assateague, Sable Island, Pinto, Missouri Fox Trotter, Mustang, Morgan, Standardbred, Palomino, Quarter Horse, Tennessee Walking Horse, Appaloosa, Colorado Ranger
  12. Mexico: Galiceno
  13. South America: Falabella, Criollo, Paso, Polo Pony

分類=(ポニー、 軽量級、 重量級

参考文献:Smithsonian Handbooks Horeses.