「対州馬」(たいしゅうば)、これが対馬地方の馬である。対馬は殆どが急斜面で耕地面積は全島の面積の3パーセント程度である。ここに島民と居るのが「対州馬」である。小型であるが、丈夫で島の生活に適して急傾斜地の登降がたくみである。
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嘗ては三千頭もいたそうである。馬三頭と牛一頭を飼っているが、対馬農家の標準的な装備だったそうである。対馬では漁業は男の仕事、農業は女の仕事であるので、馬や牛を扱うのはもっぱら女性の手に委ねられた。
「対州馬」の乗り方は独特である。まず鞍であるが「荷鞍」(にくら)を使う。これには「背もたれ」が付いている。ハミを使わず、「無口頭絡」(むくちとうらく)を使う。そして「無口」の左に着けた一本のロープが手綱となる。このロープを顎凹(おとがいくぼ)を通じて右にして、乗り手は右手でこの一本手綱を持つ。手綱を引く下から顎を圧迫するので、近代馬術で使われているグルメットと同じ役割を果たしている。
なにもかも素朴な仕掛けであるが、仔馬の頃から母馬の様子を見てる「対州馬」にとっては何の不思議ではないかもしれない。しかも常に優しく世話をしてくれるヒトが乗り手であれば尚更であろう。