馬が神として信仰されている馬頭観音について述べたが、東北地方にはソウゼンと発音する馬のための神がいる(”みちのく古代 蝦夷(えみし)の世界”)。東北固有の馬のための神である。「ちゃぐちゃぐうまっこ」などもこの神に関連するらしい。 この馬のための神が東北地方のみにあることも興味深い。馬が北まわり(日本海を渡って津軽半島あたりで上陸)のルートで日本へ伝えられた部分もあったのかもしれない。
下北半島の先端にある尻屋崎には「寒立馬」{かんだちめ)がいる。背の低いずんぐりとしたいかにも在来種といった古典的な雰囲気の馬である。北海道には在来種の痕跡がないので、この寒立馬が日本における在来種の北限ということになるのかもしれない。
それにしても、大和朝廷まで遡ってみると、在来種が関東以北、九州など朝廷の支配圏の外周にあたる所にあることは興味深い。この地域は馬の供給地となっていたのだろう。関西地方には馬の放牧に適した広い平原が少ないという地理的な条件だけなのかもしれないが。
関東には平家物語にも登場する「多々羅(たたら)の牧」がある。 例の義経のシンパになる千葉胤春(たねはる)のふるさと、千葉氏の本拠地である。この千葉氏は江戸時代は江戸幕府の馬を管理することを任されることになる。千葉県佐倉あたりは、江戸時代には民間の馬の取引所が開かれるなど大きな馬の供給地になっていた。