ウマの家畜化は幸運の産物?(5)

ウマの家畜化が何時ごろ起きたのか?

前回は先史時代の遺跡から発掘されたウマの骨の統計的な特性から家畜化された時期を推定した例を紹介した。この方法は特性の解釈に曖昧さがあり信頼が薄い。

ウマの歯にハミによる磨耗痕の有無を調べウマに騎乗すると習慣が始まった時期を特定しようとする研究がある。ウマへの騎乗する習慣はウマの性格をよく観察できる環境が必要でウマの家畜化があって初めて可能であろう。この意味でウマに騎乗する習慣とウマの家畜化は緊密に関係していると思われる。

金属のハミであり、ロープや革のハミであれ、ハミはウマの歯に磨耗痕を残す。ウマの下顎の前臼歯の第二歯(この歯はウマの口角の位置に対応すると思う)にその痕跡が残る。

現生のウマで実験をしてみる。全くハミをした経験がないウマの下顎の前臼歯の第二歯とハミを日常的にしているウマのそれを比較する。

ウマの下顎の前臼歯の第二歯
ウマの下顎の前臼歯の第二歯

上図は現生ウマたちの下顎の前臼歯の第二歯上のハミによる磨耗痕があるばあいと無いばあいの前臼歯の第二歯。写真は走査電子顕微鏡(SEM)で見たもの。
左:金属ハミ噛んでいた家畜ウマの第一歯尖上の「a型」磨耗痕を13倍の倍率でみたSEM画像。歯の半面像は同じ歯尖に3.5mmの斜面または摩滅面があることを示している。
右:ハミを噛んだことがないネヴァダの野生ウマの第一歯尖の平らな面を15倍の倍率でみたSEM画像。歯の半面像は斜面のない90度を示している。